琵琶湖に見る地球温暖化の影

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  1. 琵琶湖びわこについて調べてまとめなさい。どんな湖ですか。
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言葉 読み方 品詞
脆弱 ぜいじゃく な形容詞 このシステムはサイバー攻撃に対して脆弱であるため、セキュリティの強化が急務だ。
棲息 せいそく スル名詞 熱帯雨林には多種多様な生物が棲息している。
膨張 ぼうちょう スル名詞 空気を入れると風船が膨張する。
密度 みつど 名詞 水は温度によって密度が変化し、氷になると密度が小さくなる。
光合成 こうごうせい スル名詞 光合成によって糖類(グルコース)を作り出し、酸素を放出する。
酸素 さんそ 名詞 大気中の酸素濃度が低下すると、生物の活動に影響を与える可能性がある。
飽和 ほうわ スル名詞 水が蒸発することで空気中の水蒸気(水蒸気量)が飽和状態に達した。
濃度 のうど 名詞 この川の水質は、溶存酸素の濃度を測定することで評価される。
溶出 ようしゅつ スル名詞 雨が降って土壌から有害物質が溶出することを防ぐための対策が必要だ。
酸化物 さんかぶつ 名詞 鉄が空気に触れると、時間とともに酸化物が形成される。

 

 

琵琶湖びわこに見る地球温暖化の影
―鉛直水循環の脆弱ぜいじゃく化と化学環境の変化―

 

キーワード琵琶湖びわこ、混合、成層期、循環期、温暖化


 琵琶湖びわこ近畿きんき水甕みずがめ1と呼ばれ、日本に住む人間にとっても極めて重要な水資源です。ご存知のように面積と容積はともに日本最大です。このことからも水資源として貴重なことが分かります。琵琶湖びわこは生物の宝庫でもあります。棲息せいそくする動植物は約1100種類、そのうち琵琶湖びわこにしかいない生物種(固有種)が約50種もいます。このように琵琶湖びわこは日本に住む人にとってさまざまな意味でとても重要なものであって、大切に守るべきものと言えます。ところが、この湖にも近年、地球温暖化の影響が静かに【 A 】。

 琵琶湖びわこの水は季節によって鉛直方向(水深方向)に成層と循環を繰り返します。春から夏にかけて気温が上昇すると、湖表面の水が暖められます。すると、湖の表層には暖かくて軽い水が、深層には冷たくて重い水が存在するようになり、湖水は鉛直方向に層をします。これを湖水の成層と言います。水は4℃で最も密度が大きく(重く)、それよりも水温が高くなると膨張してどんどん密度が小さくなる(軽くなる)からです。そうなると、表層の水と深層の水は混合しなくなります。このような時期を、湖の成層期と呼びます。

 夏になるとこうして表層の水は暖かくなり、また太陽からの日射も湖面にたくさん降り注ぐようになるので、表層で光合成が活発に起こります。光合成が活発になると酸素もたくさん生成されて、水に溶けている酸素(溶存酸素)は飽和濃度を超えるようになります。

 一方、湖水が成層していると、前述しましたように、【 B 】、表層に酸素を多量に含んだ水があっても、その酸素は深層には供給されません。もちろん、深層は深くて太陽光も届かないので光合成による酸素の生成もありません。しかし、深層にも生物がいて呼吸をしています。このため、深層では酸素の消費のみが起こることになります。したがって湖水の成層が続くと、深層の酸素はどんどんと減少していきます。

 夏が過ぎ秋になると気温が低下していきます。すると表層の水が冷やされます。水温が4℃以上のときには、水は冷やされると重くなります。湖の表層に一時的ではあっても冷やされて重くなった水が生成すると、その水は下に向かって沈降ちんこうしていきます。こうして表層から少し深いところに向かって水の鉛直混合(鉛直循環)が起こって、表層の水は冷たくなるとともに、水が混合して水温が同じになった層の深さが少しずつ増していくことになります。冬になるとこの鉛直循環が湖の底にまで到達して、湖水は鉛直方向によく混合・循環して、湖の表層から底層まで水温が均一になります。このような時期を、湖の循環期と呼びます。

 湖水が完全に鉛直循環しないと、湖の底層には酸素が供給されません。したがって、循環期の直前まで底層の溶存酸素は減少を続けますが、循環期になると溶存酸素が上層から供給されてほぼ飽和するようになります。

 このことからすれば容易に、冬が寒くないと底層にまで達するような完全な湖水の鉛直循環は起こらないこと、そうなるといつまで経っても底層に溶存酸素が供給されないこと、もし1月から3月がとても暖かかった場合には、底層にまで湖水の鉛直循環が到達しないまま湖は次の年の成層期を迎えることになる、すなわち成層期が次の年にまで継続する(成層が越年する)ことになること、が分かります。地球温暖化によってこのことが琵琶湖びわこでも起こりうる可能性があります。

 成層が越年するとどのようなことが起こるのでしょう。まずは、溶存酸素濃度の現象が引き続き起こって、ついには底層で溶存酸素が涸渇こかつすることになります。そうすると、酸素呼吸をする生物は底層にはめなくなります。さらに、成層が続くと、湖底堆積物たいせきぶつからマンガン2や鉄などの金属イオンが溶出するようになります。これらの酸化物の還元が起こるからです。マンガンや鉄が溶出すると、それらの固体酸化物中に含まれていたリン酸3やコバルトなどのイオンもともに溶出します。底層の湖水が重金属イオンやリン酸イオンに汚染されることになります。もっと成層が続くと、次には硫酸4イオンの還元が起こって、有害な硫化水素5が生成して湖水にそれが貯まるようになります。

 われわれはこのことにもっともっと注意して、地球温暖化を食い止める工夫をしなくてはなりません。次代、次々代、さらに長い未来に渡って、あおく澄んだ琵琶湖びわこを残すためにも。

 

(執筆者:杉山 雅人)
出典:杉山雅人(2015)『鴨沂会誌』 152, 8-12 を一部改変


1水甕みずがめ:水を貯めておくための大きな容器のこと。
2マンガン:Manganese. (Mn)
3リン酸:Phosphoric acid. (H3PO4)
4硫酸:Sulfuric acid. (H2SO4)
5硫化水素:Hydrogen sulfide. (H2S)

 

  • 下は、読解本文に現れる学術共通語彙ごい(松下 2011)に色付けをしたものです。レベルごとに色が違います。
  • 学術共通語彙ごいは、学術的な文章を読むときに知っておくべき語です。知らない言葉があったらぜひ覚えて下さい。

 琵琶湖は近畿の水甕と呼ばれ、日本に住む人間にとっても極めて重要な水資源です。ご存知のように面積と容積はともに日本最大です。このことからも水資源として貴重なことが分かります。琵琶湖は生物の宝庫でもあります。棲息する動植物1100種類、そのうち琵琶湖にしかいない生物(固有)が50もいます。このように琵琶湖は日本に住む人にとってさまざまな意味でとても重要なものであって、大切に守るべきものと言えます。ところが、この湖にも近年、地球温暖化の影響が静かに忍び寄っています。
 琵琶湖の水は季節によって鉛直方向(水深方向)に成層と循環を繰り返します。春から夏にかけて気温が上昇すると、湖表面の水が暖められます。すると、湖の表層には暖かくて軽い水が、深層には冷たくて重い水が存在するようになり、湖水は鉛直方向を成します。これを湖水の成層と言います。水は4℃で最も密度が大きく(重く)、それよりも水温が高くなると膨張してどんどん密度が小さくなる(軽くなる)からです。そうなると、表層の水と深層の水は混合しなくなります。このような時期を、湖の成層と呼びます。
 夏になるとこうして表層の水は暖かくなり、また太陽からの日射も湖面にたくさん降り注ぐようになるので、表層で光合成が活発に起こります。光合成が活発になると酸素もたくさん生成されて、水に溶けている酸素(溶存酸素)は飽和濃度を超えるようになります。
 一方、湖水が成層していると、前述しましたように、表層深層の水は混合しないので、表層に酸素を多量含んだ水があっても、その酸素は深層には供給されません。もちろん、深層は深くて太陽光も届かないので光合成による酸素の生成もありません。しかし、深層にも生物がいて呼吸をしています。このため深層では酸素の消費のみが起こることになります。したがって湖水の成層が続くと、深層の酸素はどんどんと減少していきます。
 夏が過ぎ秋になると気温が低下していきます。すると表層の水が冷やされます。水温が4℃以上のときには、水は冷やされると重くなります。湖の表層に一時ではあっても冷やされて重くなった水が生成すると、その水は下に向かって沈降していきます。こうして表層から少し深いところに向かって水の鉛直混合(鉛直循環)が起こって、表層の水は冷たくなるとともに、水が混合して水温が同じになったの深さが少しずつ増していくことになります。冬になるとこの鉛直循環が湖の底にまで到達して、湖水は鉛直方向によく混合循環して、湖の表層から底まで水温が均一になります。このような時期を、湖の循環と呼びます。
 湖水が完全に鉛直循環しないと、湖の底には酸素が供給されません。したがって、循環の直前まで底の溶存酸素は減少を続けますが、循環になると溶存酸素が上層から供給されてほぼ飽和するようになります。
 このことからすれば容易に、冬が寒くないと底にまで達するような完全な湖水の鉛直循環は起こらないこと、そうなるといつまで経っても底に溶存酸素が供給されないこと、もし1月から3月がとても暖かかった場合には、底にまで湖水の鉛直循環到達しないまま湖は次の年の成層を迎えることになる、すなわち成層が次の年にまで継続する(成層が越年する)ことになること、が分かります。地球温暖化によってこのことが琵琶湖でも起こりうる可能があります。
 成層が越年するとどのようなことが起こるのでしょう。まずは、溶存酸素濃度の現象が引き続き起こって、終には底で溶存酸素が涸渇することになります。そうすると、酸素呼吸をする生物は底には棲めなくなります。さらに、成層が続くと、湖底堆積物からマンガンや鉄などの金属イオンが溶出するようになります。これらの酸化物の還元が起こるからです。マンガンや鉄が溶出すると、それらの固体酸化物含まれていたリン酸やコバルトなどのイオンもともに溶出します。底の湖水が重金属イオンやリン酸イオンに汚染されることになります。もっと成層が続くと、次には硫酸イオンの還元が起こって、有害な硫化水素が生成して湖水にそれが貯まるようになります。
 われわれはこのことにもっともっと注意して、地球温暖化を食い止める工夫をしなくてはなりません。次代、次々さらに長い未来に渡って、碧く澄んだ琵琶湖を残すためにも。

レベル
green 初級 レベル0
royalblue 中級 レベルI
darkblue 中級 レベルII
goldenrod 上級前半 レベルIII
orange 上級前半 レベルIV
sienna 上級後半 レベルV
pink 上級後半 レベルⅥ
crimson 超上級 レベルⅦ
red 超上級 レベルⅧ

琵琶湖に見る地球温暖化の影

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