高分子―紐のようにつながったもの

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    分子 原子 電子 低分子 高分子
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言葉 読み方 品詞
原子 げんし 名詞 原子力発電は、原子核のエネルギーを利用して電気を生産する技術です。
分子 ぶんし 名詞 この薬は特定の病気を治療するために設計された分子から作られています。
ひも 名詞 彼女は靴の紐を結びなおした。

 

 

 

高分子―紐のようにつながったもの

 

キーワード:高分子、ゴム、量子力学、化学構造、材料


 今日の私たちは、中学校の理科、高等学校の物理、化学、また科学に関するテレビ番組を通して、私たち自身を含むすべての物が原子、分子から成り立つことを知っている。原子、分子の概念そのものは、かなり古くからあったようだが、実験的な手段によってその存在が確かになったのは、比較的最近のことで、1900年頃である。それから20年余り経った1920年代に、私たちを取り巻く自然界には、原子が紐のようにつながった巨大な分子が存在することが発見された。その巨大な分子―高分子も、人工的に合成され、日常的に利用されるようになり、また高等学校の化学でもその合成法を学んでいるので、発見から100年以上経った今日ではとりわけ目新しい物ではなくなっている。高分子の発見とほぼ同じ頃に、原子を構成する電子の振舞を予測する原理—量子力学が発見された。発見当初は互いに関係のなかった量子力学と高分子の二つの領域の科学と技術は短い間に目覚しい進歩を【 A 】、それらの複合的な成果の一つが今や生活必需品となった携帯電話である。
 携帯電話の心臓部である電子回路の動作原理はもちろん量子力学に基づく。一方、携帯電話に使われる高分子と聞いて、頭に浮かぶのは合成樹脂1筐体きょうたい2ぐらいなので、量子力学と高分子を同列に並べることには抵抗があるかも知れない。しかし、その心臓部である集積回路3を作るための微細加工4用の材料、視覚情報を伝えるための液晶5表示板の材料など、直接目に見えない所に多くの高分子が使われている。てのひらに載る携帯電話を実現しているのはまさに高分子である。分かり易い例として挙げた携帯電話に限らず、私たちの身の回りのほぼありとあらゆる物に高分子が使われている。このように広く高分子が使われているのは、高分子材料の持つ独特な性質のためである。
 その独特な性質の中で最も身近で有用なものの一つは、輪ゴムなどのゴム材料が示す弾性6である。弾性はゴムの原料である高分子が紐のようにつながっていることから生じているが、それが明らかになったのは高分子が発見されてから10年ぐらい後のことである。高分子を構成する繰返し単位の化学構造によらず、それらがつながっていることのみから生じる性質には、低分子化合物にはない、高分子特有の物理化学的な本質があると思われる。

 

(執筆者:吉﨑 武尚)

 

出典:『高分子—紐のようにつながったもの』導入部
 

1合成樹脂:Synthetic resin
2筐体:特定の機能を有する機械や電子機器などを収めるための箱型の容器
3集積回路:Integrated circuit
4微細加工:金属や樹脂などの材料に、微細 (ミクロン[1/1000mm]単位) の加工を行うこと
5液晶:Liquid crystal
6弾性:力によって変形した物体が、その力が除かれた時にもとの形に戻ろうとする性質

  • 下は、読解本文に現れる学術共通語彙ごい(松下 2011)に色付けをしたものです。レベルごとに色が違います。
  • 学術共通語彙ごいは、学術的な文章を読むときに知っておくべき語です。知らない言葉があったらぜひ覚えて下さい。

 今日の私たちは、中学校の理科、高等学校の物理化学、また科学に関するテレビ番組を通して、私たち自身含むすべての物が原子、分子から成り立つことを知っている。原子、分子の概念そのものは、かなり古くからあったようだが、実験手段によってその存在が確かになったのは、比較的最近のことで、1900年頃である。それから20年余り経った1920年代に、私たちを取り巻く自然には、原子が紐のようにつながった巨大な分子が存在することが発見された。その巨大な分子―高分子も、人工合成され、日常利用されるようになり、また高等学校の化学でもその合成学んでいるので、発見から100年以上経った今日ではとりわけ目新しい物ではなくなっている。高分子の発見とほぼ同じ頃に、原子を構成する電子の振舞を予測する原理—量子力学が発見された。発見当初は互いに関係のなかった量子力学と高分子の二つの領域科学技術は短いに目覚しい進歩遂げ、それらの複合成果の一つが今や生活必需品となった携帯電話である。
 携帯電話の心臓である電子回路動作原理はもちろん量子力学に基づく一方、携帯電話に使われる高分子と聞いて、頭に浮かぶのは合成樹脂の筐体ぐらいなので、量子力学と高分子を同列に並べることには抵抗があるかも知れない。しかし、その心臓である集積回路を作るため微細加工用の材料、視覚情報を伝えるための液晶表示板の材料など、直接目に見えない所に多くの高分子が使われている。掌に載る携帯電話を実現しているのはまさに高分子である。分かり易いとして挙げた携帯電話に限らず、私たちの身の回りのほぼありとあらゆる物に高分子が使われている。このように広く高分子が使われているのは、高分子材料の持つ独特な性質ためである。
 その独特な性質最も身近で有用なものの一つは、輪ゴムなどのゴム材料が示す弾性である。弾性はゴムの原料である高分子が紐のようにつながっていることから生じているが、それが明らかになったのは高分子が発見されてから10年ぐらい後のことである。高分子を構成する繰返し単位化学構造よらず、それらがつながっていることのみから生じる性質には、分子化合物にはない、高分子特有物理化学本質があると思われる。

レベル
green 初級 レベル0
royal blue 中級 レベルI
dark blue 中級 レベルII
goldenrod 上級前半 レベルIII
orange 上級前半 レベルIV
sienna 上級後半 レベルV
pink 上級後半 レベルⅥ
crimson 超上級 レベルⅦ
red 超上級 レベルⅧ

高分子―紐のようにつながったもの

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