授業を受ける楽しみ

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  1. 日本語には「失敗は成功のもと」という言い方があります。どのような意味か説明してください。できれば、例も挙げてください。
  2. その後、下の表の言葉を確認してから、本文を読んでください。

  3. 本文を一度読んだら、音声を聞きながらもう一度読んでください。
  4. 次のページを見ると、本文中に出てくる学術的な言葉を見ることができます。

 

言葉 読み方 品詞
雑談 ざつだん サ変名詞 仕事の休憩時間に同僚と楽しい雑談をするのが日々のストレス解消になっている。
最先端 さいせんたん 名詞 ファッション業界では、常に最先端のトレンドを追いかけることが求められる。
秘話 ひわ 名詞 彼女は有名な映画監督の知られざる秘話をブログで公開した。
薄膜状 うすまくじょう 名詞 新しい太陽電池は、薄膜状の材料で作られており、従来のものよりも効率が良い。

 

 

 

授業を受ける楽しみ

 

キーワード:授業、雑談、研究、失敗


 授業を受ける楽しみは何か。こう問われれば筆者は、先生がされる種々の雑談と即答する。学生時代、様々な雑談を聴いた。雑談のテーマは、先生が現在されている研究のことやその専門分野での最先端のトピック、有名な研究者との交流秘話から果ては、先生が学生時代にした失敗談まで多岐にわたっていた。まだ、研究や研究室について漠然としたイメージしかできなかった筆者にとって、そのどれもが新鮮なものであった。あれから四半世紀過ぎた今でも記憶に残っている雑談はたくさんある。ここでは、筆者の専攻であった高分子化学に関する雑談を2つ紹介する。
 米国3M社の研究者であったスペンサー・シルバーは、より強くて丈夫な接着剤の開発に( A )していた。ある日、合成されたものは、ものにくっつくが簡単にがせるもので当初の目的からは失敗作とみられた。ところが、彼はこの失敗作を別の用途に使えないかを模索した。結果、それは現在、付箋ふせんのりとして使われている。
 高分子合成1が専門の白川しらかわ英樹ひでき博士は、所属していた研究室の研究員が、誤って千倍も濃い触媒2を加えたことで失敗したと思われた実験から、導電性高分子3であるポリアセチレン4を薄膜状に重合じゅうごう5できることを発見した。この業績により白川は2000年にノーベル化学賞を受賞している。
 凡人には失敗したで片付けられるものを、前者は失敗作を他の用途に転換できないかを( B )し、後者はよく観察して実は大きな発見が潜んでいたことを見逃さなかったのである。この雑談を聴いた当時の筆者は、研究は失敗の積み重ねによって成り立っていることを痛感したのを今でも記憶している。では、この教訓が筆者のその後の人生にどのように役に立ったのかと問われれば、耳が痛い話である。


参考文献

  • 3M社ホームページ:https://www.post-it.jp/3M/ja_JP/post-it-jp/contact-us/about-us/
  • 赤木和夫:高分子,56,20(2007)
(執筆者:岡田 幸典)


1高分子合成:研究分野の一つで、ビニールやプラスチックに代表される高分子化合物を簡単な分子(モノマー)からつくる反応を研究している。
2触媒:反応の前後で自身は変化しないが、反応を速くさせる物質。
3導電性高分子:電気を通しやすい高分子化合物。タッチパネルなどに使用されている。
4ポリアセチレン:導電性高分子の一種。多数のアセチレン分子が化学結合により結合して大きな分子(高分子)を形成したもの。
5重合じゅうごうする:数の簡単な分子(モノマー)が化学結合により結合して高分子になること。レジ袋に用いられるポリエチレンは、エチレンを重合して作られる。

  • 下は、読解本文に現れる学術共通語彙ごい(松下 2011)に色付けをしたものです。レベルごとに色が違います。
  • 学術共通語彙ごいは、学術的な文章を読むときに知っておくべき語です。知らない言葉があったらぜひ覚えて下さい。

 授業を受ける楽しみは何か。こう問われれば筆者は、先生がされる種々の雑談と即答する。学生時代、様々な雑談を聴いた。雑談のテーマは、先生が現在されている研究のことやその専門分野での最先端のトピック、有名な研究との交流秘話から果ては、先生が学生時代にした失敗談まで多岐にわたっていた。まだ、研究研究室について漠然としたイメージしかできなかった筆者にとって、そのどれもが新鮮なものであった。あれから四半世紀過ぎた今でも記憶に残っている雑談はたくさんある。ここでは、筆者専攻であった高分子化学に関する雑談を2つ紹介する。
 米国3M研究であったスペンサー・シルバーは、より強くて丈夫な接着剤の開発従事していた。ある日、合成されたものは、ものにくっつくが簡単に剥がせるもので当初目的からは失敗作とみられた。ところが、彼はこの失敗作を別の用途に使えないかを模索した。結果、それは現在、付箋の糊として使われている。
 高分子合成専門の白川英樹博士は、所属していた研究室の研究員が、誤って千も濃い触媒を加えたことで失敗したと思われた実験から、導電高分子であるポリアセチレンを薄膜状に重合できることを発見した。この業績により白川は2000年にノーベル化学賞を受賞している。
 凡人には失敗したで片付けられるものを、前者は失敗作を用途転換できないかを模索し、後者はよく観察して実は大きな発見が潜んでいたことを見逃さなかったのである。この雑談を聴いた当時の筆者は、研究は失敗の積み重ねによって成り立っていることを痛感したのを今でも記憶している。では、この教訓筆者のその後の人生にどのように役に立ったのかと問われれば、耳が痛い話である。

レベル
green 初級 レベル0
royal blue 中級 レベルI
dark blue 中級 レベルII
goldenrod 上級前半 レベルIII
orange 上級前半 レベルIV
sienna 上級後半 レベルV
pink 上級後半 レベルⅥ
crimson 超上級 レベルⅦ
red 超上級 レベルⅧ

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