時間について考えるということ

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  1. 次の文章は「時間生物学」を専門とする先生のものです。「時間生物学」がどのような学問か、想像してみて下さい。
  2. その後、下の表の言葉を確認してから、本文を読んでください。

  3. 本文を一度読んだら、音声を聞きながらもう一度読んでください。
  4. 次のページを見ると、本文中に出てくる学術的な言葉を見ることができます。

 

言葉 読み方 品詞
戦略 せんりゃく 名詞 彼は市場をリードするための新しい戦略を練っている。
思索 しさく サ変名詞 哲学者は人間存在の本質についての思索を続けている。
細胞 さいぼう 名詞 植物の細胞は光合成を行うことでエネルギーを作り出している。
耽る ふける 動詞 彼女は読書に耽り、しばしば周りのことを忘れてしまう。

 

 

時間について考えるということ

 

キーワード:時間生物学、体内時計、生物の時間


 私は『時間生物学』を専門としている。一日や一年という周期的環境下で生き物が適応的に過ごすための戦略やその仕組みを主な研究対象としている。体内時計の働きや時差ボケなどは身近な関連現象である。2017年のノーベル医学生理学賞が生物時計の研究者に授与され、この分野も少しは世間に知られるようになってきた。
 さて、私は講義の中で『時間』について話をすることがあるが、学生に対しては『時間について考えすぎるな』と釘をさしている。『時間そのもの』のように普遍的だが理解できないことを意識し続けるのは、時間の浪費とまでは言わないまでも、その行為で生産性があがることは決してない。そのような思索は哲学者にでも任せるべきだ。哲学者のカントは『時間は内的な直観の形式』と説いているが、確かに『時間』を深く見つめていくと、『内側』・『内向き』なイメージが( A )。
 話を生き物に戻すと、生き物の世界は環境という『外側』と、生き物という『内側』とのつながりにその本質があると思う。内側という点で、生き物と時間の相性は悪くなさそうだ。ここで言う生き物は、環境に応じて自発的に動作しているように見える構造体であり、個体でも細胞でもよい。細胞はすべての生き物の基本構成単位だが、多くの生き物で個々の細胞が一日周期の時計を持っていることが知られている。細胞が自分自身の時間を持っているのだ。一日に限らず、細胞は様々な種類/スケールの時間を同時進行的に利用している。細胞が『時間』について思索にふけることはなさそうだが、細胞は時間の使い方を知っているのだ。生き物が知っている『時間の使い方』を理解したいと毎日考えを巡らせている。妙案はなかなか出てこないが、『時間そのもの』と違って、『生き物の時間』への思索は科学の道筋に沿って流れ、心地よい時間を私に与えてくれる。

 

(執筆者:小山 時隆)

 

出典:京都大学理学研究科・理学部(2019)『弘報』212号
  • 下は、読解本文に現れる学術共通語彙ごい(松下 2011)に色付けをしたものです。レベルごとに色が違います。
  • 学術共通語彙ごいは、学術的な文章を読むときに知っておくべき語です。知らない言葉があったらぜひ覚えて下さい。

  私は『時間生物学』を専門としている。一日や一年という周期環境下で生き物が適応に過ごすための戦略やその仕組み研究対象としている。体内時計の働きや時差ボケなどは身近な関連現象である。2017年のノーベル医学生理学賞が生物時計の研究授与され、この分野も少しは世間に知られるようになってきた。

  さて、私は講義で『時間』について話をすることがあるが、学生に対しては『時間について考えすぎるな』と釘をさしている。『時間そのもの』のように普遍だが理解できないことを意識し続けるのは、時間の浪費とまでは言わないまでも、その行為生産があがることは決してない。そのような思索は哲学にでも任せるべきだ。哲学のカントは『時間は内的な直観の形式』と説いているが、確かに『時間』を深く見つめていくと、『内側』・『内向き』なイメージが湧き上がる。

  話を生き物に戻すと、生き物の世界は環境という『外側』と、生き物という『内側』とのつながりにその本質があると思う。内側というで、生き物と時間の相性は悪くなさそうだ。ここで言う生き物は、環境に応じて自発動作しているように見える構造体であり、個体でも細胞でもよい。細胞はすべての生き物の基本構成単位だが、多くの生き物で個々の細胞が一日周期の時計を持っていることが知られている。細胞が自分自身の時間を持っているのだ。一日に限らず、細胞は様々な種類スケールの時間を同時進行利用している。細胞が『時間』について思索に耽ることはなさそうだが、細胞は時間の使い方を知っているのだ。生き物が知っている『時間の使い方』を理解したいと毎日考えを巡らせている。妙案はなかなか出てこないが、『時間そのもの』と違って、『生き物の時間』への思索は科学道筋沿って流れ、心地よい時間を私に与えてくれる。

レベル
green 初級 レベル0
royal blue 中級 レベルI
dark blue 中級 レベルII
goldenrod 上級前半 レベルIII
orange 上級前半 レベルIV
sienna 上級後半 レベルV
pink 上級後半 レベルⅥ
crimson 超上級 レベルⅦ
red 超上級 レベルⅧ

時間について考えるということ

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