野生チンパンジーの長期研究

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  1. 野生のチンパンジーを研究することの意義を考えて、できるだけたくさん挙げてください。
  2. その後、下の表の言葉を確認してから、本文を読んでください。
  3. 本文を一度読んだら、音声を聞きながらもう一度読んでください。
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言葉 読み方 品詞
野生 やせい 名詞 野生の動物たちは自然環境で自立して生活している。
山塊 さんかい 名詞 ヒマラヤ山塊は世界で最も高い山々が集まる地域です。
変異 へんい サ変名詞 遺伝子の突然変異は、新しい生物の特徴を生み出す原因となることがある。
霊長類 れいちょうるい 名詞 霊長類の研究は、人間の進化を理解する上で不可欠な分野です。

 

 

野生チンパンジーの長期研究

 

キーワード:チンパンジー、長期研究、歴史性、空間的変異、経時的変異


 気がつけば、【 A 】25年ほど野生チンパンジーの研究を続けている。
 年1~2回、調査地であるタンザニアのマハレ山塊に行き、日中はほとんどずっと森の中でチンパンジーを追いかけて観察する。このマハレという調査地は、故西田にしだ利貞としさだ1教授が京都大学の大学院生だった1965年に調査を始めたところだ。世界的に見ても、ある動物種の、さらに言えばある特定の集団の調査が、これだけ継続しておこなわれているところは珍しい。
 チンパンジーは現生の動物の中でヒトに最も近い種の一つであるから、その自然状態での行動や社会に関する知見は人類進化を理解する上で欠かせない。実際、野生チンパンジーの調査から、これまでにさまざまなことが明らかになっている。代表的なところでは、道具使用、狩猟と肉食、食物分配、薬草利用などが挙げられる。
 今世紀に入ったくらいからは、チンパンジーの文化に関する研究が盛んになった。複数の調査地での行動比較が可能になり、環境や遺伝的な違いでは説明できない行動変異が多数存在することが明らかになっていったのである。
 文化を空間的な変異だとしたとき、行動や社会を理解する上で重要な変異がもう一つありうる。経時的な変異である。霊長類の研究が開始された当初から京都大学の研究者たちは長期研究を目指していた。それは、単に大量のデータを取るためだけではない。霊長類の社会には、「歴史性」と呼ぶことができるような、時間の流れとともに変化していく側面もあることを予感していたからである。
 「長期」とはいっても、野生チンパンジーの研究は【 B 】半世紀を少し超えたくらいである。「歴史性」というにはまだまだ短い。動物の歴史性を解明するために先人たちいた種は、ようやく根を張り、立派な葉を広げ始めている。今後、その果実を収穫できるのかどうかは、私たちや次世代の研究者たちにかかっている。

 

(執筆者:中村 美知夫)

 

写真1

図1:毛づくろいするマハレのチンパンジーたち

写真2

図2:ゾラという名前のチンパンジー


1西田にしだ利貞としさだ:霊長類学者(1941-2011年)。野生のチンパンジーの研究に携わり,霊長類研究の第一人者と呼ばれている。

 

出典:京都大学理学研究科・理学部(2019)『弘報』214号
  • 下は、読解本文に現れる学術共通語彙ごい(松下 2011)に色付けをしたものです。レベルごとに色が違います。
  • 学術共通語彙ごいは、学術的な文章を読むときに知っておくべき語です。知らない言葉があったらぜひ覚えて下さい。

 気がつけば、かれこれ25年ほど野生チンパンジーの研究を続けている。
 年1~2回、調査地であるタンザニアのマハレ山塊に行き、日ほとんどずっと森のでチンパンジーを追いかけて観察する。このマハレという調査地は、故西田利貞教授が京都大学の大学院生だった1965年に調査を始めたところだ。世界に見ても、ある動物の、さらに言えばある特定集団調査が、これだけ継続しておこなわれているところは珍しい。
 チンパンジーは生の動物のでヒトに最も近いの一つであるから、その自然状態での行動社会に関する知見は人類進化理解する上で欠かせない。実際、野生チンパンジーの調査から、これまでにさまざまなことが明らかになっている。代表なところでは、道具使用、狩猟と肉食、食物分配、薬草利用などが挙げられる。
 今世紀に入ったくらいからは、チンパンジーの文化に関する研究が盛んになった。複数調査地での行動比較可能になり、環境や遺伝な違いでは説明できない行動変異が多数存在することが明らかになっていったのである。
 文化を空間な変異だとしたとき、行動社会理解する上で重要な変異がもう一つありうる。経時な変異である。霊長研究開始された当初から京都大学の研究たちは長期研究目指していた。それは、単に大量データを取るためだけではない。霊長社会には、「歴史」と呼ぶことができるような、時間の流れとともに変化していく側面もあることを予感していたからである。
 「長期」とはいっても、野生チンパンジーの研究はようやく半世紀を少し超えたくらいである。「歴史」というにはまだまだ短い。動物の歴史解明するために先人たちが蒔いたは、ようやく根を張り、立派な葉を広げ始めている。今後、その果実を収穫できるのかどうかは、私たちや次世代の研究たちにかかっている。


レベル
green 初級 レベル0
royal blue 中級 レベルI
dark blue 中級 レベルII
goldenrod 上級前半 レベルIII
orange 上級前半 レベルIV
sienna 上級後半 レベルV
pink 上級後半 レベルⅥ
crimson 超上級 レベルⅦ
red 超上級 レベルⅧ

野生チンパンジーの長期研究

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