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  1. あなたは、自分で集めた資料などをどのように保管しますか。考えてみてください。
  2. その後、下の表の言葉を確認してから、本文を読んでください。

  3. 本文を一度読んだら、音声を聞きながらもう一度読んでください。
  4. 次のページを見ると、本文中に出てくる学術的な言葉を見ることができます。

 

言葉 読み方 品詞
化石 かせき 名詞 彼は海岸で貝の化石を見つけ、地質学の授業でそれを紹介した。
試料 しりょう 名詞 研究のために集めた試料は、厳密な温度管理のもとで保存されている。
採集 さいしゅう サ変名詞 彼女は趣味で植物を採集し、自宅の庭でそれらを育てている。
同定 どうてい サ変名詞 警察は犯罪現場で採取した指紋を同定するために、データベースと照合作業を行った。
備蓄 びちく サ変名詞 災害に備えて、食料や水を家庭で備蓄することが推奨されている。

 

 

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キーワード:化石、標本庫、未登録試料、機械学習、種同定しゅどうてい


 私は古生物学1を専門としているので、毎年のように化石試料を採集に出かける。採集した試料を処理して、それらの中から自分の研究に必要な化石を抽出する。使用した化石は論文出版と同時にしかるべき機関に登録・保管するが、その研究で使用されなかったその他の試料も、将来別の研究(他の研究者によるものも含む)に供するために捨てずに保管しておく。それらが長年蓄積すると、やがて標本庫2に大量の未登録試料が積み重なることになる。
 そうした未登録試料についても、リストを作って公開していれば、外部の機関の研究者に利用してもらいやすいに違いない。( A )、そうしたリスト作りには、下手をすると研究に要する以上の時間がかかる。種同定しゅどうてい3など専門性を伴う作業のため、アルバイトを雇って人手を確保すれば済むという話でもない。かくして、世界中の各機関の標本庫に、膨大な量の検索不能な未登録化石試料が備蓄されている。
 こうした現状の打開に人工知能を上手く活用できないかと考えるのは私だけではあるまい。専門性を要するのに創造的ではなく、有意義だが論文業績に直結しない仕事は結構あるものだ。そのような仕事こそAIが担うに相応しいと思われる。実際に、深層学習4の技術を利用した種同定しゅどうていの研究が近年急速に進んでおり、生物グループによっては高い正答率を出せるAIも生まれつつあるようだ。
 機械学習の技術によって自分の備蓄試料が有効に活用されるのは大いに結構なことだが、各試料の様態と利用実績を教師にして学習したAIが、試料の保管・廃棄の意思決定までやりだしたら大変だ。学術的な新奇性が長年見向きもされなかった試料に光を当てることも少なくない。その一方で、標本庫から無秩序に溢れた岩石・化石が他の空間を侵蝕して顰蹙ひんしゅくを買うようでは、試料の保管に理解を得るのは難しい。備蓄試料を新たな研究の苗床なえどことして活用するためには、まず我々人間が知恵を絞る必要があるだろう。

 

(執筆者:生形 貴男)


1古生物学:過去の生物に関する科学
2標本庫:自然史試料を収蔵する部屋
3種同定しゅどうてい:ある生物個体の種名・分類学的所属を決めること
4深層学習(deep learning):多層の人工ニューラルネットワークを用いた機械学習のこと

 

出典:京都大学理学研究科・理学部(2019)『弘報』213号
  • 下は、読解本文に現れる学術共通語彙ごい(松下 2011)に色付けをしたものです。レベルごとに色が違います。
  • 学術共通語彙ごいは、学術的な文章を読むときに知っておくべき語です。知らない言葉があったらぜひ覚えて下さい。

 私は古生物学を専門としているので、毎年のように化石試料を採集に出かける。採集した試料を処理して、それらのから自分の研究必要な化石を抽出する。使用した化石は論文出版と同時にしかるべき機関に登録・保管するが、その研究使用されなかったその他の試料も、将来別の研究研究によるものも含む)に供するために捨てずに保管しておく。それらが長年蓄積すると、やがて標本庫に大量登録試料が積み重なることになる。
 そうした未登録試料についても、リストを作って公開していれば、外部機関研究利用してもらいやすいに違いない。そうしたリスト作りには、下手をすると研究要する以上の時間がかかる。同定など専門伴う作業ため、アルバイトを雇って人手を確保すれば済むという話でもない。かくして、世界中の機関標本庫に、膨大の検索不能な登録化石試料が備蓄されている。
 こうした現状の打開に人工知能を上手く活用できないかと考えるのは私だけではあるまい。専門要するのに創造ではなく、有意義だが論文業績直結しない仕事は結構あるものだ。そのような仕事こそAIが担うに相応しいと思われる。実際に、深層学習技術利用した同定の研究近年急速に進んでおり、生物グループによっては高い正答を出せるAIも生まれつつあるようだ。
 機械学習技術によって自分の備蓄試料が有効活用されるのは大いに結構なことだが、試料の様態と利用実績を教師にして学習したAIが、試料の保管廃棄の意思決定までやりだしたら大変だ。学術な新奇が長年見向きもされなかった試料にを当てることも少なくない。その一方で、標本庫から無秩序に溢れた岩石・化石が空間を侵蝕して顰蹙を買うようでは、試料の保管理解得るのは難しい。備蓄試料を新た研究の苗床として活用するためには、まず我々人間が知恵を絞る必要があるだろう。


レベル
green 初級 レベル0
royal blue 中級 レベルI
dark blue 中級 レベルII
goldenrod 上級前半 レベルIII
orange 上級前半 レベルIV
sienna 上級後半 レベルV
pink 上級後半 レベルⅥ
crimson 超上級 レベルⅦ
red 超上級 レベルⅧ

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