水を巡る旅

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  1. 北白川きたしらかわ今出川いまでがわ河原町かわらまち御池おいけ」は京都の地名です。どんな共通点がありますか。
  2. 「銭湯」の読み方を答えてください。次に、地図を使って、京都にどれくらい「銭湯」があるかを調べてみてください。
  3. その後、下の表の言葉を確認してから、本文を読んでください。
  4. 本文を一度読んだら、音声を聞きながらもう一度読んでください。
  5. 次のページを見ると、本文中に出てくる学術的な言葉を見ることができます。

 

言葉 読み方 品詞
物質 ぶっしつ 名詞 この実験では、未知の物質の性質を調べることが目的です。
細胞 さいぼう 名詞 人間の体は何兆もの細胞で構成されており、それぞれが特定の機能を持っています。
分子 ぶんし 名詞 水の分子は二つの水素と一つの酸素から構成されています。
膨張 ぼうちょう サ変名詞 水は凍ると膨張するため、水道管が破裂することがあります。
湧き水 わきみず 名詞 湧き水を使って作られたビールは、特有のまろやかな味がすると評判です。
廃材 はいざい 名詞 廃材を使って簡易的な家具を作るのが、最近のDIYトレンドです。
成分 せいぶん 名詞 この化粧品は自然由来の成分で作られており、肌に優しいです。
濾過 ろか サ変名詞 濾過することで不純物を取り除き、より純粋な水を得ることができる。
衰退 すいたい サ変名詞 その産業は新技術の登場により、急速に衰退することになった。
水運 すいうん 名詞 この地域は古くから水運が発達しており、多くの商人が川を利用して商品を運んでいた。

 

 

 

水を巡る旅

 

キーワード:水、風呂、銭湯、地質


 水は生命に欠かせない物質である。実に細胞の7〜8割は水で満たされており、その中で数万種類のタンパク質が水分子の熱らぎ1を巧みに利用して働くことで、我々は生きている。通常の物質は固体になると縮むが、水は凍ると膨張し、圧縮すると溶けるという珍しい性質を持つ。このおかげでスケート靴を履けば、刃先に集中した体重で氷が溶けてスイスイと滑ることができるのだ。さて、専門的な話はこのくらいにして、今日は身近な水について書こうと思う。
 古来より水の都と言われてきた京都。確かに北白川きたしらかわ今出川いまでがわ河原町かわらまち御池おいけなど、水に関連した地名が多い。鴨川かもがわなどから地中に染込み浄化された、豊富な伏流水ふくりゅうすいが京都の発展を支えてきたと言われており、今でも至る所で美味しい湧き水が汲める。例えば京都三名水のひとつである梨木なしのき神社の染井そめいの水や、下鴨しもがも神社の御手洗水みたらいすいにしき市場や二条大橋にじょうおおはしのすぐそばにも隠れた水汲みスポットがある。日本酒好きとしては、お酒の神様をまつ松尾大社まつのおたいしゃ御神水ごしんすいも外せない。この豊かな水資源を利用して、出汁だし豆腐とうふ生麩なまふなどの食文化が栄えた。水の清らかさに加えて、食品加工でもうひとつ重要なのが、年間を通じて水温が変わらないことらしい。おかげで年中安定した味を提供できるのだとか。
 日本人に欠かせない水文化といえば、風呂だ。京都には今でもたくさんの銭湯が残っている。有形文化財に登録されている大正ロマン2船岡ふなおか温泉や、若者の手で復活したサウナの梅湯うめゆなどの名湯めいとうに加えて、京都大学吉田キャンパスの周りだけでも東山湯ひがしやまゆ、しののめ湯、銀座湯ぎんざゆ平安湯へいあんゆ、と4軒もある。京都に銭湯がたくさん残っているのは、豊富な井戸水のおかげで水道代がかからないからと、とある飲み屋の女将おかみに伺った。井戸水の利用に加えて、今でもたきぎでお湯を沸かしている銭湯が多い。京都は木造の家が多く山に囲まれているため、廃材や間伐材かんばつざい3を手に入れやすい、というのも経営を続けられている理由だろうか。夕暮れ時に街を歩いていてたきぎの匂いがしたら、近くに銭湯があるサインかもしれない。
 私はいつも銭湯用の手拭てぬぐいと水汲み用の水筒すいとうをリュックに( A )、実験のA隙間時間に水を巡る旅に出かける。Bあちこちの銭湯に浸かっては、道中で見つけた湧き水を汲んで飲み比べているうちに、鴨川かもがわの東西で味が違う気がしてきた。気になって地質図をググって4みると、銀閣寺ぎんかくじから修学院しゅうがくいんにかけての東山ひがしやま一帯だけ、花崗岩かこうがんが分布している情報を得た。花崗岩かこうがんは白い石英せきえい長石ちょうせきを主成分とし、所々に黒光りする雲母うんもが入る岩石である。鴨川かもがわの東西で天然の濾過ろかフィルターが違えば、水の味が違うのは納得である。

 花崗岩かこうがんが水で侵食されると、簡単にペラペラとがれる雲母うんもは水流で巻き上げられて粉々になり、重い白砂だけが残る。なるほど、東山を流れる川は川底が白いから白川しらかわと名付けられたのか、とC合点がいった。発見の連鎖はさらに続く。一乗寺いちじょうじから曼殊院まんしゅいんへ向かう道に雲母湯と書いて、きらら湯と読ませる銭湯がある。不思議な名前の銭湯だなぁとずっと思っていたが、ははーん、沸かしたお湯に雲母うんも欠片かけらがキラキラ光っていたから、こう命名したのか!雲母湯は白川しらかわの源流近くに位置している。このくらい上流であれば、もろい雲母うんもも目に見える形で残っていそうだ。番頭さんに確認したわけでは無いので名前の由来は定かではないが、Dもやもやしていたことが自分の中で繋がってきた。気持ちいい瞬間である。
 明治初頭、東京遷都せんとで衰退してしまった京都は、また水の力に頼った。琵琶湖びわこ疏水そすい5をつくって水運を確保すると共に、鴨川かもがわとの落差を利用した水力発電所を建設し、その電力で日本初の路面電車を走らせた。別の復興事業として、清水きよみずの舞台下、音羽おとわの滝のすぐ横にビール工場を建てたが、当時の人の口に合わず数年で頓挫とんざしてしまったらしい。清水仕込みのビールはどんな味がしたのだろうか。京都の水を巡る旅は、まだまだE尽きない。

 

(執筆者:宮﨑牧人)


1らぎ:分子などの粒子が不規則に動きまわること。温度が高いほど分子の動きは激しくなる
2大正ロマン:大正時代(1912年から1926年)の雰囲気ふんいきや風潮
3間伐材:密集した森林の木を切ることでできる木材
4ググる:俗に、サーチエンジンでインターネット上の情報を検索すること
5琵琶湖びわこ疏水そすい琵琶湖びわこの水を京都市に流すための水路

 

 


出典:京都大学白眉センター(2021)『白眉センターだより』Vol.19, pp.26-27

 

  • 下は、読解本文に現れる学術共通語彙ごい(松下 2011)に色付けをしたものです。レベルごとに色が違います。
  • 学術共通語彙ごいは、学術的な文章を読むときに知っておくべき語です。知らない言葉があったらぜひ覚えて下さい。

 水は生命欠かせない物質である。実に細胞の7〜8割は水で満たされており、その種類のタンパク質が水分子の熱揺らぎを巧みに利用して働くことで、我々は生きている。通常の物質は固体になると縮むが、水は凍ると膨張し、圧縮すると溶けるという珍しい性質を持つ。このおかげでスケート靴を履けば、刃先に集中した体重で氷が溶けてスイスイと滑ることができるのだ。さて、専門な話はこのくらいにして、今日は身近な水について書こうと思う。
 古来より水の都と言われてきた京都。確かに北白川、今出川、河原町、御池など、水に関連した地名が多い。鴨川などから地中に染込み浄化された、豊富な伏流水が京都の発展支えてきたと言われており、今でも至る所で美味しい湧き水が汲める。例えば京都三名水のひとつである梨木神社の染井の水や、下鴨神社の御手洗水、錦市場や二大橋のすぐそばにも隠れた水汲みスポットがある。日本酒好きとしては、お酒の神様を祀る松尾大社の御神水も外せない。この豊かな水資源利用して、出汁や豆腐、生麩などの食文化が栄えた。水の清らかさに加えて、食品加工でもうひとつ重要なのが、年間を通じて水温が変わらないことらしい。おかげで年中安定した味を提供できるのだとか。
 日本人に欠かせない水文化といえば、風呂だ。京都には今でもたくさんの銭湯が残っている。有形文化財に登録されている大正ロマンの船岡温泉や、若者の手で復活したサウナの梅湯などの名湯に加えて、京都大学吉田キャンパスの周りだけでも東山湯、しののめ湯、銀座湯、平安湯、と4軒もある。京都に銭湯がたくさん残っているのは、豊富な井戸水のおかげで水道がかからないからと、とある飲み屋の女将に伺った。井戸水の利用加えて、今でも薪でお湯を沸かしている銭湯が多い。京都は木造の家が多く山に囲まれているため、廃材や間伐を手に入れやすい、というのも経営を続けられている理由だろうか。夕暮れ時に街を歩いていて薪の匂いがしたら、近くに銭湯があるサインかもしれない。
 私はいつも銭湯用の手拭いと水汲み用の水筒をリュックに忍ばせており、実験の隙間時間に水を巡る旅に出かける。あちこちの銭湯に浸かっては、道中で見つけた湧き水を汲んで飲み比べているうちに、鴨川の東西で味が違う気がしてきた。気になって地質をググってみると、銀閣寺から修学院にかけての東山一帯だけ、花崗岩が分布している情報た。花崗岩は白い石英と長石を主成分とし、所々に黒光りする雲母が入る岩石である。鴨川の東西で天然の濾過フィルターが違えば、水の味が違うのは納得である。
 花崗岩が水で侵食されると、簡単にペラペラと剥がれる雲母は水流で巻き上げられて粉々になり、重い白砂だけが残る。なるほど、東山を流れる川は川底が白いから白川と名付けられたのか、と合点がいった。発見連鎖さらに続く。一乗寺から曼殊院へ向かう道に雲母湯と書いて、きらら湯と読ませる銭湯がある。不思議な名前の銭湯だなぁとずっと思っていたが、ははーん、沸かしたお湯に雲母の欠片がキラキラ光っていたから、こう命名したのか!雲母湯は白川の源流近くに位置している。このくらい上流であれば、もろい雲母も目に見えるで残っていそうだ。番頭さんに確認したわけでは無いので名前の由来は定かではないが、もやもやしていたことが自分ので繋がってきた。気持ちいい瞬間である。
 明治初頭、東京遷都で衰退してしまった京都は、また水のに頼った。琵琶湖疏水をつくって水運を確保すると共に、鴨川との落差を利用した水力発電所を建設し、その電力で日本初の路面電車を走らせた。別の復興事業として、清水の舞台下、音羽の滝のすぐ横にビール工場を建てたが、当時の人の口に合わず年で頓挫してしまったらしい。清水仕込みのビールはどんな味がしたのだろうか。京都の水を巡る旅は、まだまだ尽きない。


レベル
green 初級 レベル0
royal blue 中級 レベルI
dark blue 中級 レベルII
goldenrod 上級前半 レベルIII
orange 上級前半 レベルIV
sienna 上級後半 レベルV
pink 上級後半 レベルⅥ
crimson 超上級 レベルⅦ
red 超上級 レベルⅧ

 

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