数学の結果のわかりやすさ
- 数学はどんなことに役立つと思いますか。考えてみてください。
-
その後、下の表の言葉を確認してから、本文を読んでください。
- 本文を一度読んだら、音声を聞きながらもう一度読んでください。
言葉 | 読み方 | 品詞 | 例 |
---|---|---|---|
方程式 | ほうていしき | 名詞 | 彼は方程式を解くことによって、その問題の答えを見つけ出した。 |
整数 | せいすう | 名詞 | 整数はマイナスの数、ゼロ、プラスの数を含んでいます。 |
我々数学の研究者も他の分野と同じように新しいことを生み出そうとしている。そのアプローチのしかたとしては、(a) 何か既存の問題を解こうとする、(b) 自分の専門分野があって、そこで色々勉強したりなどしているうちに何かできることに気がついてそれを研究する、などがあると思う。既存の問題も有名な未解決問題からそうでもない問題まで難易度はさまざまだが、院生1が指導教員から問題を与えられる場合は別として (a) のアプローチは難しい。多くの人は (b) のアプローチをしているのではないかと思うし、私も例外ではない。ただし,年間何十万ページもの論文が発表されるので、(b) のアプローチでは結果は技術的なことになりがちで、数学の中の他分野の方にもわかるような結果は出しにくい。
例えば自分のやっていることは整数論2の一部で「代数群の作用の軌道の整数論的な意味を考え、その対象がどう分布しているかを研究する」なのだが、これで数学以外の人にわかってもらえるとは思えない。結果を出したとしても、例えば「この薬を開発したので、1億人の命を救った」などということの圧倒的なわかりやすさには比べようもない。そういうわかりやすい研究結果を発表できる分野のことはとても羨ましく思っている。もちろん数学も全体としては役に立っていることもある。例えば、自分が子供の頃は天気予報は結構外れたが、今は予報が割と当たるようになって、それにナビエ・ストークス方程式3の数値解析4も貢献していたり、情報の秘密保持、特に金銭の授受などで使われる暗号はほとんど整数論だったりすることもある。( A )、それは数学全般が進歩することによって①生じていることであって、実際に自分の研究が世の中に直接役に立つというようなことは純粋数学ではあまりない。自分の専門分野の整数論は、場合によってはかなりわかりやすい結果を出せる可能性のある分野である。自分もなるべくわかりやすい結果を出したいと思っている②常日頃である。
1院生:大学院生
2整数論(Number theory):整数の性質を研究する数学の一部門
3ナビエ・ストークス方程式(Navier-Stokes equations):流体の運動を記述する方程式
4数値解析(Numerical analysis):理論的に解を得ることが困難な問題に対して、計算機等を用いて近似解を求める手法、およびそれに関する学問
出典:『弘報』京都大学理学研究科・理学部,2020,217号
- 下は、読解本文に現れる学術共通語彙(松下 2011)に色付けをしたものです。レベルごとに色が違います。
- 学術共通語彙は、学術的な文章を読むときに知っておくべき語です。知らない言葉があったらぜひ覚えて下さい。
我々数学の研究者も他の分野と同じように新しいことを生み出そうとしている。そのアプローチのしかたとしては、(a)何か既存の問題を解こうとする、(b)自分の専門分野があって、そこで色々勉強したりなどしているうちに何かできることに気がついてそれを研究する、などがあると思う。既存の問題も有名な未解決問題からそうでもない問題まで難易度はさまざまだが、院生が指導教員から問題を与えられる場合は別として(a)のアプローチは難しい。多くの人は(b)のアプローチをしているのではないかと思うし、私も例外ではない。ただし,年間何十万ページもの論文が発表されるので、(b)のアプローチでは結果は技術的なことになりがちで、数学の中の他分野の方にもわかるような結果は出しにくい。
例えば自分のやっていることは整数論の一部で「代数群の作用の軌道の整数論的な意味を考え、その対象がどう分布しているかを研究する」なのだが、これで数学以外の人にわかってもらえるとは思えない。結果を出したとしても、例えば「この薬を開発したので、1億人の命を救った」などということの圧倒的なわかりやすさには比べようもない。そういうわかりやすい研究結果を発表できる分野のことはとても羨ましく思っている。もちろん数学も全体としては役に立っていることもある。例えば、自分が子供の頃は天気予報は結構外れたが、今は予報が割と当たるようになって、それにナビエ・ストークス方程式の数値解析も貢献していたり、情報の秘密保持、特に金銭の授受などで使われる暗号はほとんど整数論だったりすることもある。しかし、それは数学全般が進歩することによって生じていることであって、実際に自分の研究が世の中に直接役に立つというようなことは純粋数学ではあまりない。自分の専門分野の整数論は、場合によってはかなりわかりやすい結果を出せる可能性のある分野である。自分もなるべくわかりやすい結果を出したいと思っている。
色 | レベル |
---|---|
green | 初級 レベル0 |
royal blue | 中級 レベルI |
dark blue | 中級 レベルII |
goldenrod | 上級前半 レベルIII |
orange | 上級前半 レベルIV |
sienna | 上級後半 レベルV |
pink | 上級後半 レベルⅥ |
crimson | 超上級 レベルⅦ |
red | 超上級 レベルⅧ |